更新日 2002-12-30

© NIPPON CLUB SNC

   

COMEVAweb
2002年12月号

12月号トップページへ
政界あらかると
ちまたのピーチクパーチク
comevaあんけーと
イタリアあの人この人
情報広場
今月の劇場
カトリックあれこれ
気楽なビデオタイム

COMEVA12月号サンプル
ダウンロード988kb

© NIPPON CLUB SNC


ページの上にもどる

 

  政界あらかると
イタリアの政治用語

 10月25日のテレビ番組『ストリーシャ・ラ・ノティツィア』で、国会(上院)議員が自分の隣の席の投票ボタンに手を伸ばし、欠席議員の投票を代理で行っているシーンをご覧になった方は多いと思う。番組内ではそんな彼らを「ピアニスト」と呼んでいた。なるほど、姿勢を変えずに一瞬腕を伸ばす姿といい、すました表情といい、ピアニストという名がぴったりで、うまい表現をするものだと思ったら、今に始まったことではないという。昔から、投票の代理をすることをイタリアの政治用語でピアニストと言ってきたそうだ。ただし、今回のように複数の与党議員(少くとも12人)が2人3人分の投票を行うのは前代未聞のこと(これまでは、友達議員がサボった時にちゃんと給料を受け取れるようにやってあげる程度のものだった)。 それも、今年の7月11日に上院議長が「上院でピアニストを行った場合、依頼した方、された方の両議員に250ユーロ(日当にあたる)の罰金を課す」ことを決めていたにも関わらず、である。
 しかも今回の投票は、注目の「Cirami法案」であった。次の日の新聞に野党マルゲリータの議員たちが証拠写真を提示して、上院議員の不正行為(大多数が与党議員)を非難した。だが上院議長は「投票はすべて有効」とし、不正を働いた議員たちも「トイレに立った隣の議員の代わりをしただけ」とか「席を外していた議員がその時会議場内にいれば代弁は有効」などと、全く悪びれることはなかった。
  それを受けて下院議長は「ピアニストの不正行為をしたら即刻退場」とあらかじめ予防線を張り、この後の下院でのCirami法案最終投票の厳格な投票を促した(下院では98年から磁気カードを使った電子投票に代わっていて代弁は難しくなっている。だが下院議長は投票の際に指紋認識などを行う方式の導入も検討しているという)。結局、11月5日の最終投票では野党DS議員らは「このような恥ずべき法律を望んだ者だけで投票すればいい」と投票を拒否し退場。マルゲリータ党はあくまでも「上院での投票の不正」を主張したが、与党の賛成大多数で法案は成立した。  
 さてそれでは、法案提出から成立まで超特急だったこの新しい法律「Cirami法」とは何かというと、「裁判官が被告に対して公正でない判断をすると思われる正当な疑いがある場合、裁判所の変更を申請できる」とするもの。だが、この法律の目的は何よりも、「Imi-Sir/Lodo Mondadori裁判」(現首相ベルルスコーニの弁護士であったプレヴィティ元上院議員・元大臣・現下院議員が、一連の企業買収に絡む不正に関する裁判を有利に運ぼうとローマの裁判官に賄賂を渡した疑いでミラノ地検から訴えられている。プレヴィティ氏に13年、その他ローマの民事裁判官や弁護士ら6人にも5〜10年の禁固刑の論告求刑が10月21日に為された)を、裁判所を変えて時間をかせぎ、時効に持ち込もうとすることであろう、と考えられている。同法は「明らかにプレヴィティを救う個人的な法律」という見方が野党で一般的であり、司法界からは「個人的な利益追求の可能性が高いばかりでなく、現在進行中の多くの裁判を妨害する可能性がある有害な法律」と批判されている。いずれにせよ裁判所を移してやり直すなど庶民には到底無理なことで、「金持ちが刑務所に行かずにすむための法律」であるということは想像できる。そもそも、裁判官に賄賂を払った疑いがかけられている被告が「裁判官が自分に対して不正な判断をするから別の裁判所に変えてくれ」と言うのは、「私の息のかかった裁判官のいる裁判所に変えてくれ」と言っているのも同然で、「かつて自分は贈賄した」と認めているようなものだ。とにかくこの法律は、野党の修正案は取り上げられることなく、チャンピ大統領の指示でオリジナルの法案を5個所訂正して成立した。
 昨年から、ベルルスコーニ政権の方針に反対して市民が集まり、皆が手をつなぎ大きな輪になって平和的に抗議する「ジーロトンディーニ」が流行っている。マスコミの報道政策に反対ならRai本社の回りを、司法改革に反対なら裁判所前で輪を作るのである。ジーロトンディーニというのは、ジーロ・トンドのように手をつないで輪を作り、連帯の気持ちを表現する人たち、という意味だ(「ジーロ・トンド」はイタリアの子供の遊びで、日本の「かごめかごめ」みたいなもの)。今回のCirami法案に関しても、映画監督ナンニ・モレッティや野党も参加して市民の抗議運動が行われた。最終的に法律が成立しても尚、チャンピ大統領に対し「サインしないように」とジーロトンディーニで訴えたが、大統領は、自分が指示した修正個所が認められたのでもちろんサインし、市民に対しては「司法の良識を信用してほしい」と言った。
 最後に蛇足ながら付け加えておくと、「トランスアトランティコ」というと本当の意味は大西洋横断であるが、イタリアの政治用語では国会会議場のことである。下院のあるモンテチトーリオ宮の長い廊下が、通称トランスアトランティコと呼ばれているからだ。従って「トランスアトランティコのピアニスト」といえば、トルナトーレの映画『La leggenda del pianista sull' Oceano』(海の上のピアニスト)のことではなく、「イタリアの代弁投票国会議員」のことである。


Noriko Ishibashi Molisso