|
COMEVAweb
2002年12月号
●12月号トップページへ
●政界あらかると
●ちまたのピーチクパーチク
●comevaあんけーと
●イタリアあの人この人
●情報広場
●今月の劇場
●カトリックあれこれ
●気楽なビデオタイム



COMEVA12月号サンプル
ダウンロード988kb
© NIPPON CLUB SNC
ページの上にもどる
|
|
気楽なビデオタイム
イタリア人にとってベニーニは別格
10月11日、待ちに待ったロベルト・ベニーニの新作映画『Pinocchio』が公開された。世界中を感動の渦に巻き込んだ前作『La vita e' bella』から5年経ち、オスカー主演男優賞、最優秀外国作品賞、映画音楽賞を射止めた作品の次回作とあって、公開前からこの映画は大注目を浴びていた。
この、世界中の子供たちに親しまれているイタリアの童話の映画化を長年夢見ていたベニーニは、前作同様に脚本、監督、主演をつとめ、彼の作品に欠かせない共演者、妻のニコレッタ・ブラスキが妖精役で出演、オールキャストがイタリア人俳優、音楽も前作同様ニコラ・ピオヴァーニ。ベニーニの大ファンである私は初日に早速映画館に出かけ、運良く待たされることなく入場できたが、週末は長蛇の列を作っているようだ。イタリア全国で当映画を上映している映画館数はイタリア映画史上最多で、第1週目だけで約900万ユーロの興行収入を記録(伊映画史上最高)。制作費総額約4500万ユーロ(これも伊映画史上最高)でスピルバーグ並みの特撮が駆使され、亡き巨匠フェリーニの映画を髣髴させるような幻想的シーンがちりばめられ、それがベニーニ節とうまく調和して素晴らしい出来ではあった。が、観客や批評家の評判はいまいちだ。私個人的にも前作ほど好きにはなれない。ベニーニの作品の特徴は「笑いとペーソス」であるが、今回はそのベニーニらしさがなんとなく失われているのだ。
これまで、ピノッキオをテーマにした映画がたくさんあったなかで、きっと誰もがまずディズニーのアニメを思い出すことだろう。イタリア人にとってもやはりこのアニメの印象が強かったので、今回ベニーニのピノッキオにそれを覆すような出来ばえを期待していた観があった。だが蓋をあけてみると、 いつものような彼独特のアレンジが加わっておらず、あまりに原作に忠実だったのだ。とはいえ、酷評をよそに皆がこぞってこの映画を観に出かけるということは、イタリア人にとってベニーニ作品はもはや「必ず観ておきたい映画」という風にブランド化しているのだろう。国民的喜劇俳優、映画監督であるベニーニはイタリア人に実に愛されており、いたるところで褒賞され、つい最近もボローニャ大学で名誉学位を受け、ローマでは世界のノーベル賞受賞者らによって結成されたゴルバチョフ団体から「平和のメッセンジャー」として表彰された。
ついでながらここで、私が好きなベニーニ作品を彼の生い立ちとともに述べてみる。ロベルト・ベニーニ(Roberto Benigni)は1952年10月27日、『La vita e' bella』の舞台ともなったトスカーナ州アレッツォ県のミゼリコルディアの農家の長男として生まれた(3人の姉がいる)。18歳の時、プラートの小劇場でデビューし、1972年には友人達と共にローマに移り住み、実験劇を倉庫や住宅街の中庭などで披露。ローマで知り合ったジュゼッペ・ベルトルッチ(『ラスト・エンペラー』などの監督で知られるベルナルド・ベルトルッチの弟)とコンビを組んでモノローグを行い、大成功をおさめる。その後、プロデューサーで脚本家のレンツォ・アルボーネ(アーティスト発掘者として有名)にその独自の才能が認められてテレビ番組に出演するようになり、人気が徐々に高まった。映画人として認められるのは、友人マッシモ・トロイージ(映画『Il Postino』の脚本及び主演。97年に心臓病で若くして死亡)と組んで制作し、主演した1984年の『Non ci resta che piangere』が大ヒットしてからである。それ以降ベニーニ作品はヒットを重ねるが、その中でも私のお薦めは、1982年から彼の映画に参加し、92年に妻となったニコレッタ・ブラスキが出演する4つの映画だ。
1988年の『Il piccolo diavolo』ではベニーニが間抜けな憎めない悪魔、そして今は亡きアメリカ人喜劇俳優のマシュー・マテオが神父を演じ、テーマとなっている“悪魔払い”の様子が面白おかしく描かれている。1991年『Jonny Stecchino』では、パレルモのマフィアから足を洗ったペンティート(回心者)と、彼にウリふたつだったためにペンティートに間違われる人物の二役を演じた。トンマーゾ・ブシェッタをはじめとする実際のペンティートを題材にとったもの。マフィアの組織から脱けて警察に協力することで減刑され、国からの保護を受ける、ということが頻繁に行われた当時の映画。94年作『Il mostro』では、人と違うというだけで殺人犯の疑いをかけられたベニーニは実は無実で、「真の狂人は一見普通に見え、私たちのすぐ身近にいる」ということが描かれている。当時世間を震撼とさせたフィレンツェの殺人鬼、ピエトロ・パッチャーニをモデルとしているように私には思えるのだが…(パッチャーニは映画『ハンニバル』のモデルとなった)。そして最後はもちろん、それまでイタリアやヨーロッパではかなり有名だったベニーニの名を世界中に知らしめ、世界中を感動の渦に巻き込んだ1997年の『La vita e' bella』。ナチ収容所という最悪の逆境におかれても、人間と人生に対して希望を失わず、息子と妻に量りしれない愛を注いだ主人公のイタリア系ユダヤ人はベニーニのはまり役である。この映画を観終わった私たちに、まさに映画のタイトル通りに「それでも人生はすばらしい」と感じさせてくれる心温まる作品なので、まだ観ていない方は是非観てほしい。ベニーニはチャップリンやトトにも決してひけをとらず、彼らの映画同様、我々が意気消沈している時の最高の薬となる。イタリア人はベニーニの映画を観たときにきっと、イタリア人であることを誇りに思うのだろう、と思う。
なお、『Pinocchio』は来年3月のオスカーにイタリア映画作品代表として参加することが既に決まっている。ベニーニが再び受賞することを期待したい。この映画の全米と日本における公開予定日は12月20日である。
Mariko Aotani
|